カンボジア側のイミグレーションオフィス(ただの小屋のよう)で出国手続きを
済ませ、ゆっくり歩いて国境を越える。国境といっても、カンボジアとベトナムを
隔てていのは延々と続いている三本の有刺鉄線だけ。周りは見渡す限りの
平原で何もないのんびりした感じの所だった。
そのまま真っ直ぐ歩いていくと、ベトナム側にも同じように三本の有刺鉄線が
ある。そこでふっと気付いた。ふたつの有刺鉄線の間はどこが国境線なんだ?
疑問に思ったまま歩いていき、大きな鳥居のようなものの下を潜ってから
振り返ると、そこには“VIETNAM”の文字が。
カメラを出して記念撮影していると、近くにいた男の子に声を掛けられた。
「何?」
「ここは写真だめなんだよ。そこに書いてあるでしょう」
「本当?」
男の子の指差す方をみると、“撮影禁止”と書かれた看板が立っていた。
でも、もう写真撮った後だったから、笑って誤魔化し、そのままベトナムの
イミグレーションオフィスに歩いていった。
入国手続きの順番待ちのときに声を掛けてきた優しそうな笑顔のおじさんの
車に乗り、僕はホー・チ・ミンへと向かった。
’96年の日記から
Nikon AF600
<撮影地>ベトナム・カンボジア国境